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第4回 ベトナム人の海外労働を巡って

多くのベトナム人が日本に働きに来ています。日本の雇用ニーズを賄うためには、海外の労働者に頼らなければならないという現実を前に、技能実習生制度が活用されてきました。入管法の改正により特定技能制度の実質的な導入のための対応が進められています。また、ベトナムと日本の関係において、人材の交流は非常に重要です。人的な交流を強化することは、両国と両国民が互いをよりよく理解し、多様な協力への道を開くことに貢献する可能性があります。多くのベトナム人は、日本へ働きに出ることにより、自らの夢を実現できていると期待したいのですが、実際はそうならない場合も多いと感じます。犯罪の性質は重大ではないものが多いものの、日本で罪を犯す外国人の総数の中、ベトナム人が最も多くの割合を占めています。失踪せざるを得ない状況に追い込まれるベトナム人も少なくありません。中には自殺したり、精神疾患に陥ったりする人々もいます。

これらの状況をもたらしている原因は、社会・制度上のメカニズム、実施過程、社会のからの圧力などによりベトナムの皆さんに過度のストレスが掛かっていることにあると考えます。ベトナム人の皆さんの権利と安全を保護するためには、日本とベトナムの両方に存在する原因と問題について対応を図る必要があります。日本側の問題としては、日本の受入れ会社、監理団体等の中間会社が、必ずしもベトナム人の労働者の権利を守るために対応していない場合が少なくないことがあります。残業代を支払わなかったり、生活環境が劣悪であったり、合理的とは言えない基準で勤怠評価を行ったりするなどいわゆるブラック企業的な環境で働かされる場合があります。日本では、これまでも有意な弁護士、大学教授、労働組合、社会団体等の方々が問題を抱える外国人労働者の皆さんを支援されています。貴センターの副理事長の上田義朗先生が代表理事に就任された一般社団法人外国人材雇用適正化推進協会も外国人材雇用の適正化を図る活動を通じてその一翼を担われると聞いています。

一方で、ベトナムにおける問題も深刻に存在しています。具体的には以下の各点を指摘することができます。
まずは、ベトナム人の若者たち自身が考えるべき問題があります。日本に行きたいベトナムの若者が十分な情報を入手出来ていないことと、自らの権利として物事を判断できる環境が十分には存在していないという点です。日本を含む外国に行って働くための第一の理由はお金を稼ぐことでしょう。しかし、日本で働くのは数年間ですから、その後の仕事や人生について考えないわけにはいきません。日本からベトナムに戻ってきた後のキャリアプランを考え、その中で日本に行くことにどのような意義があるのかを考える機会が現状ではほとんどありません。日本に行くことでどのような仕事ができ、どのような技能を身に付けることができるのかといった情報を前もってきちんと理解し、判断する必要があります。また、お金を稼ぐにしても、初期費用が発生しています。日本では送り出し機関と呼ばれている労働力輸出会社(ベトナムの労働省の許認可を受けています)に支払うべきお金やその他の準備費用を含めて多額のお金が必要です。日本に働きに行く人々の多くは地方の出身ですから、そのようなお金を簡単に準備することはできません。多くは借金をしますし、親の家を担保にする場合も少なくありません。日本での労働条件、特に給与や残業に関する条件について事前に明確にする必要があります。また、日本で自らの権利が侵害された場合に誰に助けを求めればいいのかについて事前に理解しておく必要があります。

しかし、上記のような点は、ベトナムの若者たち自身の努力だけでは、十分な理解や認識を得ることは極めて難しいと思います。国や社会がきちんと彼らを促し、導いていく役割を担わなければなりません。現在のベトナムの制度では、ベトナムから外国に働きに出る労働者を派遣する事業は、すべて、ベトナムの労働省からん認可を受けた労働力輸出会社が行っており、現在全国に数百社が活動しています。本来であれば、外国で働きたいと願うベトナムの若者たちを良き方向に促す役割は彼らが担うべきですが、実際はそのような役割を積極的に担っている会社は少数と言わざるを得ません。法令上は3600ドルが上限にもかかわらず、その2倍、3倍を超える報酬をベトナムの若者から徴収するケースは極めて多いです。また、本来許されていない保証金や違約金を徴収するところもあります。契約書や領収書を交付しなかったり、日本に行けない状態にもかかわらず、報酬を支払わせたり、金銭を返還しなかったりするケースもたくさんあります。各種資格書類等の偽造を積極に行うところもあります。また、こうした労働力輸出会社の周辺では多数のブローカーがベトナム人の若者たちを勧誘しており、労働力輸出会社もブローカーに人材確保の多くを頼っています。こうした労働力輸出会社やブローカーなどの中間会社は、組合と言われる日本の監理団体に人材を紹介する立場にあります。よりよい受入れ会社を紹介してくれる監理団体と関係性を構築しようとするベトナムの中間会社と監理団体との間である種の利害関係が生まれることが多く、そのコストがベトナム人の若者の負担として転嫁されることが多いです。
上に述べた問題を含むベトナム人の外国での労働を管理するべきベトナムの労働省ですが、自らの責任を十分に果たしているとは言えません。労働力輸出会社などのブローカーへの監視、監督は不十分だと言わざるを得ません。

こうした悪徳な中間会社に対応するためには、そうした中間会社から被害を受けた若者の救済を支援する活動を行う団体が必要ですが、ベトナムにはそうした活動を行う団体はまだありません。そこでベトナムに住む日本人有志がプロジェクトを立ち上げることになりました。越日希望の轍プロジェクトというプロジェクトです。そのプロジェクトには、私も代表として参加する予定です。

本来は非営利活動として一般社団法人のような形態が望まれますが、ベトナムではそうした法人、NGOの設置に当たっては、内務省の許可が必要であり、かつ外国人が正式な構成員、管理者になれません。一方、企業法には社会企業という制度があり、実質的なNGO活動として存在することが可能です。社会企業制度とは、企業法上の有限会社や株式会社の枠組みを前提として、事業利益の51%超をあらかじめ定めた社会貢献プロジェクトのために全額使用することにより、法人税等の減免税措置を受けることができる制度です。また当該プロジェクトに使用するために外部からの寄付を受けることができます。本プロジェクトはこのように設立された社会企業として運営されます。

具体的には、① 悪徳業者から不公正、不合理、不法な取り扱いを受けた若者の権利回復を目指すための保護・支援活動(交渉、請求、訴訟支援等)、② 悪徳業者に対する告発、被害事例や加害業者に関する周知活動を行う他、必要に応じて在ベトナム日本国大使館やベトナムの関係当局に通知と要請を行います。また、③ 日本での労働条件、生活環境などに関する不満、不平について帰国した若者の声を聴き、必要に応じて社会一般に とシェアし、国内外の関係機関に通知する活動、④ ベトナム帰国後の就職状況などについて調査をすることなどを計画しています。

日本とベトナムの間の人材面での協力関係は極めて大切であり、両国関係の基礎を固めるものです。日本社会においては、単にコストカットや企業経営の維持のみに外国人労働者を利用するものではなく、その外国人労働者の権利や学ぶ意欲を尊重することがさらに大切です。ベトナムの側においては、単に外貨獲得の手段だと考えたりするのではなく、ベトナム国内での雇用の確保や産業育成の中でベトナム人の人生全体を見据えた対応をするべきだと考えています。

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