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5.122025
2025年5月 活動報告
▼ 2025年 5月 活動報告 -理事長 森正暁 -
理事長 森 正曉
日差しが日毎に強くなり、春を飛び越えて初夏を感じさせる此の頃です。
さて、米国トランプ大統領の関税政策は、全世界を巻き込み、ベトナムに対しても高関税が課せされることとなり、さまざまな影響が懸念されています。
川島博之氏(ベトナム・ビングループMartial Research & Management 主席経済顧問、元東京大学大学院農学生命科学研究科准教授)は次のように述べています。
4月14日~15日、中国の習近平主席がベトナムを訪問した。
これに対してトランプ大統領は、「中国とベトナムが、米国に損害を与える方策を模索するために会談している」と言ったとされる。今回の訪問がトランプ大統領のベトナムに対する心象を著しく悪くしたことは否めない。
■ ベトナムが迫られる難しい舵取り
実際的には、ベトナムはこの来訪に戸惑っている。現在90日間の猶予がつけられているものの、トランプ大統領はベトナムからの輸入品に46%の関税を課すと言っている。それに対してベトナムは、米国からの輸入関税を全てゼロにするとして関税の見直しを求めているが、米国から輸入している物品は少ないので、関税をゼロにしたところで米国の赤字が大きく減ることはない。
ベトナム政府は、米国にフック副首相を派遣して米財務長官と会談させたが、その会談は今後の交渉日程を話し合ったに過ぎないようだ。米国が簡単にベトナムの要求を飲むとは思えない。そんな難しいタイミングで習主席がやって来た。
現在ベトナムは、中国から米国への迂回輸出の拠点になっている。中国企業が部品をベトナムに送り、組み立てて「Made in Vietnam」として輸出している。ひどいケースでは、ラベルを貼り替えるだけとも囁かれている。これでは米国から目を付けられても文句は言えまい。
ベトナム経済は輸出が支えている。中国企業による露骨な迂回輸出を除いても、ベトナム企業が中国から部品を輸入して、それを組み立てて米国に輸出しているケースは多い。ベトナムは中国に対して大幅な貿易赤字を抱える一方、米国には大幅な貿易黒字を計上している。
ベトナムは、長い間貿易赤字に苦しんできた。2010年代に入ると、そんなベトナムに、サムスンをはじめとする韓国の輸出産業が、安い人件費を求めて進出してきた。それによって貿易収支が改善し、金融政策にゆとりが生まれた。
2020年頃になると、やはり国内の賃金が上昇した中国企業が、ベトナムに進出してくるようになる。その動きは2023年秋以降に加速した。それは、トランプ氏が大統領に再選される可能性が出始めてきたからだ(日本では「もしトラ(もしもトランプが大統領に再選されたら)」などと言われた)。トランプ氏は選挙戦で中国に高関税を課すと公言していた。
ベトナムは極めて難しい舵取りを迫られている。ベトナムは、歴史上何度も中国の侵略を受けた。1979年の中越戦争は記憶に新しい。
ベトナムは虎の尾を踏むことがないように、細心の注意を払って中国と交渉している。その一方で、米国から高関税を課されると経済が大打撃を受けるので、それも避けなければならない。
トランプ大統領の発言は日々コロコロと変わるので、この関税騒ぎが、どのような形で決着を見せるか、予測することは難しい。だが長い目で見ると、トランプ大統領による関税騒ぎは、ベトナム経済が曲がり角に差し掛かったことを示している。
東南アジアにおいて、タイとマレーシアは中国とほぼ同時期に発展したが、ベトナムの発展はそれに約20年遅れた。これから発展しようとする時にトランプ関税に遭遇した。
■ リアリティーを持って語られる戦争の恐怖
ベトナムは、東南アジアにおいて、損な役割を演じることが多い。1960年代初頭から1975年まで、ベトナムは米国とソ連との代理戦争の場になった。そんなベトナムは、米国と中国の対立において、またも代理戦争の場になりつつある。米中対立は、トランプ大統領が火をつけたとも言えるが、トランプ氏が大統領にならなくても、同じような対立が起きたと考えられる。世界に二つの覇権国家は存在できない。習主席が「中国の夢」と称して覇権国家の道を歩まなかったとしても、人口大国の中国が力をつけば米国との対立は避けられなかったであろう。両雄並び立たずは世のならいである。
現在ベトナムが密かに恐れていることは、ベトナムがアジアのウクライナになってしまうことだ。経済的な利益を求めて米国に近づき過ぎると、中国軍が突然攻めてくる。高位高官や企業経営者などを含むハノイの中高年は、中越戦争をよく覚えているので、戦争の恐怖は、リアリティーを持って語られている。
そんな恐怖が習主席に対して最大限のもてなしをするとともに、中国の要求をほぼ丸呑みするような会談結果を作り出してしまった。ただトランプ大統領は、このような歴史や民族感情に配慮する繊細な感性は持ち合わせていないので、冒頭に述べたように「米国に損害を与える方策を模索するために会談している」と捉えるのだろう。
いずれにせよベトナムは、90日間の猶予の間に関税を撤回してもらわなければ、大きな打撃を受ける。極めて厳しい状況に置かれている。米越の交渉から目が離せない。
JPプレス4/20(日) 配信