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2023年8月 活動報告

▼ 2023年 8月 活動報告 -理事長 森正暁 -

猛暑の折ですが、会員各位におかれましてはお健やかにお過ごしのことと思います。

わが国においてはようやく日常を取り戻しつつありますが、ベトナムにおいても、コロナの感染状況も落ち着き、平常の経済活動に戻りつつあります。 こうした中、在ベトナム日系企業は新たな課題を抱えています。
この新たな課題について、アビームコンサルティング(株)の興味深いレポートがありましたので、参考までに転載いたします。

ベトナムの日系企業が抱える、多種多様かつ広範な課題
ベトナムに進出する外国企業にとっての投資環境上のリスクには、人件費の高騰による人材確保、法整備の未整備・不透明な運用、税務・行政手続きの煩雑さが一般的に挙げられます。その中で、在ベトナム日系企業の動向や諸課題として、下の5つを解説します。

1)サプライチェーン断絶を避けるためのレジリエンス向上
対症療法的で一過性の効果に限られる対処法ではなく、サプライチェーンの課題抽出から着手する必要がある。そのうえで、サプライチェーンネットワークの再設計、グローバル競争強化のためのFTA(自由貿易協定)活用推進のニーズが高まってくると想定している。

2)賃金急上昇を見据えたDXを活用した労働制生産性の向上
ベトナムで賃金上昇による生産コスト増に悩んでいるのは、日系企業も同様である。とりわけ製造業では、生産量は増え続ける一方、日系企業の本社の方針で現地工場の拡大がなかなか適わないなか、もしくは既存の従業員や設備でいかに対応するかが重い課題になっている。
人件費については、賃金上昇分を他のコスト低減で吸収し、原価率の上昇を抑えることに各社は腐心している。それには、業務自動化等のデジタル変革が有効である。例えば、デジタル変革において先進的な企業では、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)導入を前提で業務を再設計し、他の工場の1/3の人員で同水準の生産性を達成している。
また設備面では、限られたスペースで最大の生産性を実現するために、生産性を最大化する工場レイアウト、生産ラインの設計にこれまで以上の精査が求められる。というのも、一度構築したレイアウトやラインは変更が容易ではなくコストも発生するためで、この精査の助けとして、デジタルツイン等を活用したシミュレーションソリューションが導入されることもある。

3)コンプライアンス意識の向上
今ベトナムでは、外国投資家のために、ファム・ミン・チン首相主導のもと、改革、腐敗・不正撲滅を徹底している。その一方、ルールや手続きの厳格化が外国企業のベトナムへの投資を停滞させる可能性も指摘されている。その動向に加え、日系大手製造企業がベトナム子会社の税金追徴を免れようと現地公務員に賄賂を渡した事件もあり、日系企業のコンプライアンス意識は高まっている。
 不正防止には、人の手を介在させない業務プロセスの実現が有効手段の一つになる。例えば、RPAを活用すると、不正につながる情報変更パターンを検知し、取引先の口座情報の不正な差し替え等を防止できる。

4)個人情報保護法施行に向けた対応
ベトナムには、個人情報保護法等はないが、2021年に個人データ保護に関する政令案が公表された。日系企業にとっては、ベトナム国内の従業員や顧客の個人情報を日本本社や他国拠点と共有する際のルールが大きく変わる可能性がある。その動向は、ベトナムでビジネスを展開する外国企業からも注目を集めており、今後法令が施行されれば、個人情報に紐づくあらゆる業務のシステムやプロセスの変更が生じることになり、その変更の影響範囲や度合いによっては業務の抜本的な見直しに迫られる。

5)優秀な人材のリテンション
現在、ベトナムでは賃金が上昇しており、優れた人材が外国企業に流れていくなど流動性が高まり、退職を防ぐ「リテンション」に腐心している。一方、在籍する従業員の育成も重要な人事施策で、優秀な従業員が備えている資質や経験してきたキャリアパスをデータで分析し、パターンを導き出して他の従業員に適用する方法も採られている。現在、日系企業は比較的少人数の法人・拠点が多く、配置や登用が勘と経験に委ねられがちで、それでも一定の効果を挙げられてはいるものの、今後ビジネスの規模が大きくなってきた際には、優秀人材の見える化と最適配置のロジック構築を両立できるタレントマネジメントツールを導入するなどの投資が予測される。
このように、ベトナムの政治・経済・社会の動向は、ビジネスにも大きな影響を与えかねないものであり、日系企業にも情報収集のアンテナを常時張り、適時対応が迫られる。確実性、効率、仕組化等を考慮した時、多様な対応アプローチがあり得る中で、デジタル技術を援用した対策が有効な選択肢になり得る。 
 また、デジタル化については、ベトナムでも、政府が「Industrial Revolution 4.0」を標榜し、2030年までにデジタル国家になるビジョンを掲げてDX(デジタルトランスフォーメーション)を積極的に推奨している。それを受けて、自社のDXがいかに進んでいるか、政府の政策にいかに対応しているかを対外的にアピールしているベトナム企業も多くある。しかしながら蓋を開けてみると、アプリの開発、SAP(業務標準化システム)などの基幹システムの導入といったIT技術の導入にとどまっている実態も散見される。DXの本質である「デジタル技術を活用した会社や社会の変革」を掲げて実行しているベトナム企業は、まだほとんど存在していない。
 一方、日系企業でDXが進んでいるかというと、そこもまた発展の途上にある。DXを推し進め、成果を挙げている企業はもちろん存在するが、ごく少数派である。多くの企業では、日本本社からDXがミッションとして発せられても、現地責任者や幹部の多くが年代的にデジタル世代ではない。DXとは何かを理解し、その名のとおり「変革」までの道筋を構想し、実現まで導くのは容易なことではない。
 そこで、多岐にわたる課題を解決し、デジタル技術による真の変革を実現するためのパートナーとしてコンサルティングファームの存在価値が生まれる。

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